energytransition’s diary

急速に変化する電力・エネルギー業界での出来事について慎ましく発信するブログです。

【解説】タックス・エクイティとは?

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今回はアメリカの再生可能エネルギー業界を理解するに当たって重要な「タックス・エクイティ(Tax Equity)」について、自分の理解の整理も兼ねて簡単にまとめたいと思う。

 

色々な理解の仕方があると思うが、Tax Equityとは「節税を主な目的とした投資」と理解するのが良いと思っている。投資家が投資をする際にリターンを求めるのは当然だが、Tax Equityの投資の場合、節税が期待リターンの重要な部分を占めることとなる。

 

それでは、「なぜ、Tax Equityとアメリカの再エネに関係があるのだろうか?」

 

それは、アメリカでは再エネの導入を促進するために、連邦政府が様々な優遇税制を導入しているから、である。具体的には、主な優遇税制として以下の二種類が導入されている:

 

  • ITC(Investment Tax Credit、投資税控除):主に太陽光発電を対象とする。発電システムの開発・建設にかかわる総投資額の一定割合(2019年時点では30%)を法人税から控除できる。つまり、少し乱暴な言い方をすれば、太陽光発電の総事業費を30%割引できるようにする制度である。
  • PTC(Production Tax Credit、生産税控除):主に風力発電を対象とする。発電システムの発電量に応じて$0.023/kWh(約2.5円)の税控除を付与するもの。これまた少し乱暴な言い方をすれば、風力発電が発電した電力を$0.023/kWh(約2.5円)安く提供することを可能にする制度である。

 

これを読んで、「なーんだ、簡単じゃないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、複雑になるのはここからである(と、少なくとも筆者は思っている)。

 

というのも、再エネの開発を行う企業(デベロッパー)の多くは十分な課税所得を有していない場合が大半だからである。

 

どういうことか。

 

再エネの開発を行うとITC・PTCに代表される税制優遇(他にMACRSという加速度償却などもある)が活用できることは上述の通りだが、再エネのデベロッパーは利益を上げるために多くの再エネ案件開発を手掛ける必要がある。

 

しかし、多くの再エネ案件を開発すると、その分だけ付与される税制優遇の金額も大きくなる。そうすると、税制優遇を自社で活用するために必要な課税所得がさらに増え、さらに多くの再エネ案件を開発する必要が生じる、というスパイラルにはまるのである。

 

また、そもそも再エネのデベロッパーは新興企業が多く、上述のスパイラル以前の問題として十分な利益を上げられていないケースも多い(というか、こちらが大半かも知れない)。

 

理由はともかくとして、再エネのデベロッパーが十分な課税所得を有していないと困ったことが起きる。それは、再エネの開発に当たって、せっかく付与される税制優遇のメリットを再エネのデベロッパーだけでは活用できない、ということになるからだ。

 

しかし、アメリカの制度はうまくできており、きちんとした対応策が用意されている。それは、再エネのデベロッパーが課税所得を十分に有する他の企業と連携することで、再エネ開発で付与される税制優遇のメリットを活用できるようにする、というものである。

 

そして、ここでいう「課税所得を十分に有する他の企業」こそが冒頭で登場していた「Tax Equity」の投資家である。

 

通常、再エネ案件を開発するに当たっては、その資産を保有するための会社(特別目的会社、Special Purpose Company(以下SPC))が設立されるが、ITC・PTCなどの税制優遇はそのSPCに付与される。

 

この税制優遇を活用するため、このSPCに何らかの形でTax Equityの投資家が投資する。その際、通常はTax Equity投資家がSPCの株式を引き受けることとなるが、この対価に、この投資を通じてTax Equity投資家が享受できる税制優遇のメリットも反映することで、再エネのデベロッパーは税制優遇のメリットを活用することができるのだ。

 

つまり、Tax Equity投資家は、再エネへの投資に際して、節税効果の価値も含めた金額を再エネのデベロッパーに支払うのである。

 

これは、「自身で税制優遇のメリットを活用しきれない再エネデベロッパーが、節税メリットを少し割引して他の企業に販売することで、税制優遇のメリットを一定程度享受する」ことだと理解している。

 

どこまで関心のおありの方がいるかは分からないが、何らかの参考になれば幸いである。