energytransition’s diary

急速に変化する電力・エネルギー業界での出来事について慎ましく発信するブログです。

ソフトバンク 世界最大の太陽光発電案件の開発中断か

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ソフトバンクサウジアラビア公共投資ファンド(PIF)が取り組んでいた世界最大級とされる太陽光発電案件の開発が中断されたとWall Street Journal等が報道した。

 

ソフトバンクPIFは2018年3月にMOU(覚書)を締結し、総額20兆円をかけて世界最大となる200GW級の太陽光発電案件の開発を2030年までに進めることに合意。

 

ソフトバンク孫正義社長は、同プロジェクトがサウジアラビアの石油依存を低減すると共に、最大10万人の雇用をもたらし、電力コストを400億ドル圧縮可能と述べていた。

 

それ以降、両者は初期段階のリサーチなどに取組んでいたものの、サウジアラビア王国内の要人の合意が得られなかったことや、理想と現実の乖離に直面したことで、検討が棚上げされたとの報道だ。

 

これに対し、ソフトバンクPIFはそれぞれ声明を発表し、同案件の開発を継続していることを強調しており、両者の関係が継続していることをうまくアピールできているが、「この規模と複雑さを備えるプロジェクトとしては、期待に沿った進展が続いている(ソフトバンク)」と何とも微妙なトーンのコメントに止まっている。

 

 

本件の真相は不明だが、サウジアラビアにおいて2030年までに200GWの太陽光発電を導入するのは現実的でないだろう。

 

現在のサウジアラビアにおける発電容量は66GW(2016年時点、出典: EIA)、ざっくり言うと、その40%が石油火力、60%がガス火力の発電所から成る。

 

サウジアラビアは、経済成長に伴い電力需要が増大することから、2032年には120GW程度まで発電容量を引き上げる計画を発表しているが、15年程度で発電設備を倍増させる計画の実現性には疑問符が付く。

 

石油火力もガス火力も、どちらも24時間稼働可能な電源であることから、太陽光と発電容量を単純比較することは不適当であるが、それでも2030年までに200GWの太陽光を導入することはかなり難度が高い。

 

仮に200GWの太陽光を導入したとするとサウジアラビアはその電力需要のほぼすべてを太陽光により発電することとなると思われるが、ご存知の通り太陽光は日中しか発電しないため、日中に発電された余剰電力をどのように扱うか、という人間が未だ正解を導けていない問いに直面せざるを得ない。

 

蓄電池に貯めるにしてもあまりに莫大な量の蓄電池が必要となるし、夜間はガス火力・石油火力で賄うとするならば日中の太陽光発電の無駄が大きすぎる。

 

ということで200GWの太陽光が2030年までにサウジアラビアで開発されることはないと個人的に思うが、ソフトバンクはそれでいいのだろう。

 

というのも、ソフトバンクは第二ビジョンファンドにPIFから5兆円を調達することを発表したばかり。第一ビジョンファンドに対する出資と併せるとPIFの拠出額は約10超円と破壊的なインパクトである。

 

太陽光がどの程度実現するかどうかはさておき、様々な側面からサウジアラビアの政府高官との関係を構築・強化し、道中多少の取りこぼしはあったとしても、実務上の恩恵を受けるという孫正義率いるソフトバンクの経営スタイル・手腕は日本企業においては傑出したレベルだと思う(それを支える実務スタッフは大変そうだが。。。)。

 

中東の盟主たるサウジアラビアからどれほどの果実を日本に引っ張ってこれるか、ソフトバンクの挑戦を応援したい。

 

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